若干ネタバレあります。
面白かったけど、決して良い気分にはならない小説だった。
令和の今をこれでもかと描いた内容で
ちょっと私は好きじゃなかった。
主人公の久保田慶彦とその娘の澄香が別れた彼と彼の娘に重なって冒頭から気分が悪かった。
職場では部下に軽んじられ、やっと友達が出来たと思ったら、自分の出過ぎた行動で相手が遠ざかってしまった中年男性に同情と共感を抱いた。
そして澄香の視点で語られる物語から今の若者の生態を知り、
隅川絢子という非正規の独身一人暮らしの女性にそのまま自分の将来を重ねるという苦々しい現実ばかりを見させられた時間だった。
それにしても、この朝井リョウさんは30代の男性なのに、なぜこんなにも若い女性と中年男性の気持ちを表現できるのか不思議なものだ。
一番印象に残ったのは慶彦の言う
『これからは、やった事ではなく、
やらなかった事が還ってくる』という旨のセリフだ。
あぁ、そんなんだ、この人の歳になるとそうなんだ、やらなかった事が結果として還ってくるんだ。
私にとってはまだ見ぬ感情だが、なぜか分かる気持ちにさせてもらえた。
澄香が下に見て安心して過ごせる相手ユリちゃんとの描写がリアルだった。
自分にも経験があるから、後半でユリちゃんが澄香から離れていく展開は予想できた。
誰かを笑った人間は必ず誰かに笑われる。
下に見た相手には必ず追い抜かれる。
真心で接していない相手からはそのうち離れていかれる。
これは私の教訓である。
この澄香って子は、推しに出会わなければ、留学に行って帰ってきても大して成長せず、下に見ていた人たちが充実した人生を送っている様をインスタで見ながらモヤモヤした人生を送っただろう。
しかし推しを知ってからの彼女からは、劣等感や謎の意識高い系の考えは消えていた。
冷ややかに見下していた推し活狂者に、いつの間にか自分がなった澄香。
推し活に狂う若者と違って、洋楽を好む娘を誇りに思っていた慶彦。
推し活マーケットをコントロールする側に立ち、その掌で動く信者の1人を、娘の対極にある存在として興味を持ち、その動向を見ていたら、その信者こそが・・・。
まぁどうせこのページを開いた人は読了した人だろうからネタバレの心配はないが
わざわざ書かなくてもいいか。
それにしても最後の描写は見事だった。
普段小説を読まない私だが、このラストは素人目からしても賞賛に値すると分かる。
直後の展開を想像させる終わり方は良いと思うが、余白を楽しめるほど上品な人間ではないので、はっきり言ってもどかしい感じもした。
その後どうなったか、書いてよ。慶彦がどんな顔でどんな声を出して、その後どうやって澄香と接したのか、書いてよ。
大して好きな作品ではないのに、その後が気になるのが何とも腹立たしい。
朝井リョウの作品はもうこれでお腹いっぱいだが、また他にも小説を読みたいと思わせてくれたことには感謝する。
なぜ私がこの本を買ったのかと言うと、
『さんまのまんま』に彼が出ていて、この本について話していたからだ。
朝井リョウに興味はない。
さんまが読んだ本を読みたかった。
さんまがどう思ったのか知りたい。
慶彦と澄香の心理描写を読んで
自分とイマルを重ねたのだろうか。
最初はそんな事を思いながら読んでいたが
読み進めていくうちにそんな事は頭から消え
登場人物3人の景色がどのように重なっていくのか、すっかり没入して読んでいた。
だが好きではない、決して。
嫌なことを思い出させられるから。
それでも面白かった。
当初は胸糞悪い小説を2200円も出して買ってしまったと思ったが、もし映像化したら絶対観ると思う。